多くのコスメブランドがライブコマースに挑戦するも、「視聴者数は集まったが、コンバージョン(購買)に繋がらない」という共通の壁に直面しています。
その原因は、インフルエンサーの知名度やトーク力にあるのではなく、配信の「台本」そのものにあるかもしれません。
視聴者は、商品の「機能やスペックの説明」を聞きに来たのではありません。彼らの「欲しい」という感情を揺さぶる「物語」がなければ、商品は売れないのです。
本記事では、「完売」を戦略的に仕掛けるための台本設計と、インフルエンサーを単なる「演者」から「共犯者」へと変えるプロセスについて解説します。
失敗する台本 vs 完売する台本
ライブコマースの成否は、台本が「何を伝えようとしているか」で決まります。
失敗する台本:「機能」を羅列し、「広告」のように届けてしまう
従来の広告のように、商品のスペック、価格、キャンペーン情報といった「機能」だけを上から一方的に「届ける」台本です。インフルエンサーがどれだけ流暢に機能性を説明しても、それは視聴者にとって「ただの宣伝」でしかありません。これでは視聴者の心は動かず、購買行動には繋がりにくいのです。
完売する台本:「感情」に寄り添い、「物語」で響かせる
一方、「完売」を生む台本は、視聴者の「リアルな悩み」や「満たされない感情」に焦点を当てます。そして、その商品がどう悩みを解決し、どんな「ポジティブな未来」をもたらすのかを、具体的な「物語」として「響かせる」構成になっています。
SNS経由の購買行動は、「感情・共感・憧れ」が動機となります。この“好き”から“欲しい”を一気につなげることこそが、ライブコマース台本の核心です。
「N1分析」こそが、最高の台本である
では、視聴者の「感情」に響く「物語」はどこにあるのでしょうか。その答えは、たった一人の「理想の顧客(N1)」の深いインサイト(本音)の中にあります。
顧客が「買う瞬間」の感情を解剖する
私たちが戦略を立てる際、まず徹底するのがこの「N1分析」です。その理想の顧客は、商品を買う前に「どんな対処法に失敗し」「何を比較検討し」「何を不安に思っていた」のでしょうか。
そして、何が「最終的な決め手」となり、商品を手にしたことで、どんな「感情的な価値」を手に入れたのか。この一連の心の動きを、徹底的に解剖します。
台本とは「顧客の心の旅」の追体験である
優れた台本とは、この「N1分析で得られたストーリー」そのものです。
例えば、私たちがご支援したD2Cヘアケアブランドでは、「白髪をポジティブな気持ちで解決したい」という顧客の本音(N1)を発見しました。
これを台本に落とし込むと、「わかります、私も昔は〇〇(ネガティブな対処法)で失敗して…」「AとBで迷いますよね、どちらも機能は良いけれど…」「でも、これを使った瞬間に、悩みが解決する“心地よさ”に気づいて…」といった、顧客の心の旅を追体験する流れが生まれます。
視聴者は「これ、私のことだ」と自分事化し、インフルエンサーへの共感と共に、熱狂的な購買意欲が喚起されるのです。
インフルエンサーを「演者」から「共犯者」へ変えるブリーフィング
最高の台本(N1ストーリー)も、メッセンジャーであるインフルエンサーの心が動かなければ、視聴者には響きません。
渡すのは「台本」ではなく「ブランドの熱い想い」
インフルエンサーに渡すべきなのは、セリフがびっしりと書かれた「台本」ではありません。ブランドの「熱い想い」や「開発ストーリー」です。
なぜこの商品を作ったのか。どんな苦労があったのか。この商品で、どんな人のどんな未来をポジティブに変えたいのか。
この“哲学”を事前に共有し、インフルエンサー自身にまずブランドのファンになってもらうこと。これこそが、熱量を引き出すための最も重要な「先回り」の鍵です。
台本を「自分の言葉」で語ってもらう
「N1ストーリー(顧客の本音)」と「ブランドの熱い想い」をインプットした上で、インフルエンサー自身の「リアルな言葉」で語ってもらいます。
ブランド側が用意するのは、あくまで「物語の骨子」だけ。インフルエンサーが自身の体験と言葉で肉付けすることで、台本は「読まされたセリフ」ではなく、視聴者の胸を打つ「熱狂的な本音の口コミ」へと昇華されます。
ライブコマースとは、「熱狂」をリアルタイムで共創する劇場である
ライブコマースの「完売」は、インフルエンサーの人気に依存した偶然の産物ではありません。
それは、
- N1分析に基づく「顧客の物語」(戦略的な台本)
- ブランドの熱い想いに共感した「メッセンジャー」(熱量あるインフルエンサー)
この2つが掛け合わさった時に起こる、必然的な結果です。
私たちは、その「熱い想い」を持ちながらも、どう届ければよいか悩んでいるブランドの「かけこみ寺」として、戦略の設計から配信の成功まで「伴走」します。

