もしあなたが今、Instagramで「#新作コスメ」と検索し、競合製品の投稿が並ぶ画面を見てため息をついているのであれば。
「もっと多くのインフルエンサーにギフティングすれば、いつかはこの検索結果を自社製品で埋め尽くせるはずだ」――。
そう信じて走り続けているなら、少しだけ立ち止まってみてください。
過去、私たちが伴走してきたクライアントの中にも、同じように素晴らしい製品と情熱を持ちながら、資本力のある大手の物量作戦の前に疲弊していく姿を何度も見てきました。
その原因は、あなたの努力不足でも、予算不足でもありません。
そもそもSNSマーケティングという“戦う場所”のルールを、少しだけ誤解しているからかもしれないのです。
9割の企業が陥る、コスメギフティングの“思考のワナ”
多くの企業が実施するインフルエンサーへのギフティング施策は、残念ながら「その他大勢」の投稿に埋もれるだけで終わってしまいがちです。
それは、業界に蔓延する2つの“思考のワナ”にはまっているからではないでしょうか。
過去の私たち自身もこのワナにはまり、クライアントを消耗戦に巻き込んでしまった痛恨の経験があります。
だからこそ、同じ轍を踏んでほしくないという強い想いがあります。
ワナ①:「フォロワー数が多い=影響力が高い」という幻想
まず最も陥りやすいのが、「フォロワー数」という指標の魔力です。
フォロワーが10万人いるインフルエンサーと、5万人のインフルエンサー。どちらに依頼しますか?と問われれば、多くの人が前者を選ぶでしょう。
しかし、その10万人のフォロワーが、本当にあなたの製品のターゲットでしょうか?
- フォロワーのアクティブ率は高いか?(休眠アカウントばかりではないか?)
- フォロワーの興味・関心は、あなたの製品と合致しているか?(コスメに興味のないフォロワーが多くないか?)
- 男女比や年齢層は、ターゲットと一致しているか?
これらのデータを見ずにフォロワー数だけで選ぶのは、通行量の多い交差点で、美容に全く興味のない人にまで高級美容液のチラシを配り続けるようなものです。
一見、多くの人にアプローチしているように見えて、そのほとんどは誰の心にも響かず、ただコストだけが消費されていきます。
ワナ②:「商品を渡して投稿してもらう」だけの単純作業
次に、「ギフティング=商品を渡して投稿してもらう作業」と捉えてしまうワナです。
この考え方で進めると、生まれてくる投稿の多くは、「素敵な商品をありがとうございます」といった当たり障りのない、いわゆる“お礼投稿”で終わってしまいます。
そこに、他のユーザーが「私も欲しい!」「もっと詳しく知りたい!」と感じるほどの熱量や共感は生まれるでしょうか?
答えは、残念ながら「No」です。
結果として、他のユーザーによる自発的な投稿(UGC)は広がらず、施策は単発で終了。継続的な話題化には繋がりません。
UGCを自然発生させる、売上100億ブランドの思考法
では、どうすればいいのか。
結論からお伝えすると、「タグを埋め尽くす」という状態は、届けるべき人に響くメッセージが届き、その熱量が自然と伝播した“結果”にすぎません。
私たちは、数々のブランド支援を通じて、その状況を意図的に作り出すための普遍的な「思考法」に辿り着きました。

思考法1:インフルエンサーの前に「理想の顧客」を定義する
私たちがドラッグストアで展開するあるシャンプーブランドを支援し、売上を3年で100億円規模に成長させた際、最初に取り組んだのは「本当の顧客は誰か?」を再定義することでした。
一般的には「消費者」と考えますが、私たちは棚の決定権を持つ「流通バイヤー」こそが、売上を左右する最重要顧客だと捉え直したのです。
消費者にSNSでいくら話題になっても、バイヤーに響かなければ商品は店頭に並ばず、売上は絶対に作れないからです。
この考え方は、インフルエンサーの選定においても全く同じです。
あなたの投稿を、まず「誰に」届けたいですか?
その人はどんなライフスタイルで、どんなことに悩み、普段どんな人の投稿を参考にしていますか?
まずはターゲットとなる理想の顧客像(ペルソナ)を明確にすること。
そして、そのペルソナが「共通してフォローしている影響力のある人物」こそが、あなたが起用すべき真のインフルエンサーなのです。
思考法2:「買わない理由」から最強のPRコンテンツを作る
D2Cヘアケアブランドの立ち上げをご支援した際、社内では業界の常識だった「白髪の悩みを煽るネガティブな訴求」が推奨されていました。
しかし、私たちがターゲット顧客に直接ヒアリングを重ねると、「悩みを煽る広告はもう見たくない」という隠れた本音が見えてきたのです。
私たちは社内提案を却下し、「悩みを心地よく解決し、ポジティブな未来を手に入れる」という全く新しいコンセプトを提案しました。
この「顧客の本音」に基づいたメッセージを軸にコミュニケーションを設計した結果、ブランドはローンチ後わずか半年で約20万人の新規顧客を獲得する爆発的なヒットを記録しました。
あなたの製品について、顧客が抱える隠れた「不満・不安・不便」は何でしょうか?
その「不」を解消し、「こうなりたい」というポジティブな未来を提示する文脈(ストーリー)こそ、インフルエンサーに語ってもらうべき最強のコンテンツになります。
明日からチームで実践できる、戦略立案の最初の一歩
戦略の重要性はわかった。では、具体的に何から始めればいいのか?
ぜひ、あなたのチームで明日から試せる「問い」に取り組んでみてください。
チームで実践する3つの問い
- 私たちの製品を使ってほしい「たった一人の理想の顧客(ペルソナ)」は、どんな人ですか?(年齢、職業、価値観、悩みなどを具体的に)
- その人は、普段どんなInstagramアカウントを、どんな理由で見ていますか?(最低3アカウントをリストアップし、理由を言語化する)
- その人が私たちの製品を「買わない」としたら、その理由(不満・不安・不便)は何だと思いますか?
このワークは、今後のSNS戦略の羅針盤となります。
もし理想の顧客像が曖昧な場合は、既存のブログ記事やお客様の声をAIツール(Vrewなど)で簡単に動画化し、SNSでいくつかのパターンをテスト投稿してみるのも有効な一手です。
どんな動画の反応が良いかを見ることで、顧客インサイトの貴重なヒントが得られるはずです。
ブランドの「熱い思い」を、本当に届けるべき人に届けるために
「タグ検索を自社製品で埋め尽くす」という目標は、決して夢物語ではありません。
しかし、そのために必要なのは、闇雲な物量作戦ではなく、顧客を深く理解し、戦略の「視点」を変える勇気です。
あなたのブランドには、創業者が込めた「この商品で世の中を良くしたい」という「熱い思い」や、開発の「ストーリー」が必ずあるはずです。
そのかけがえのない価値を、データと戦略に基づいて、本当に届けるべき人に届ける。
その先にこそ、UGCが自然発生し、多くのファンに愛される未来が待っています。
私たちは、規模の大小に関わらず、情熱あるブランドがいつでも頼れる「かけこみ寺」のような存在でありたいと願っています。
あなたのブランドの伴走者として、お話できることを楽しみにしています。